マイ・スウィート・ビーンズ

齋藤崇治。東大博士課程で政治学を研究しています。

もしもアメリカ政治を勉強(研究)したいと思ったら 2021/01/25更新

アメリカ政治はニュースでよく見るし、身近な存在だ。

 

しかし、アメリカ政治(研究)にどのように入門するかは意外と難しい。今回は、アメリカ政治研究の入門~先行研究レビューの役に立つ論文・書籍を紹介したい。なお、私は、現代アメリカ政治(特に、大統領制・官僚制)を中心テーマとしており、外交・国際政治分野や政治史・外交史分野、思想については立ち入った話をしないしできない。

 

個人的に、何かに入門する時は、最終的に読めるようになるべき基本書と、最初とっかかりとして読むべき入門書の両方を読むべきだと思っている。最初から基本書だけ読んでいたら挫折するに決まっているからだ。一方で、両者はある程度区別される。入門書だけ読んでも深い理解は当然得られない。入門書で「ズル」をして少しずつ研究につながる論文・基本書に駒を進めていくと良いだろう。

 

そして、更新を重ねているうちに冗長になってしまった。しかし、これを全部読まないと卒論を書けない、修士・博士に進学するべきではないなど言うつもりは当然ない。どちらかと言うと、勉強の見取り図にして欲しいと言う程度である。

 

0 とっかかりに

 アメリカ政治を学ぶ際、最低限歴史と制度についてざっくり知っておくことは望ましいし、最初から細かい部分を勉強しても仕方ない。その際参考になるのは、岩波新書のシリーズ アメリカ合衆国史シリーズだ。特に第三巻は、アメリカ政治を学ぶ上で重要な時代を扱っている。個人的には通史はこのシリーズで十分だと思う。(と言っても私は歴史の専門家ではないが)

www.iwanami.co.jp

また、制度面では、ベストセラーになった『民主主義の死に方』はなんだかんだ政治制度とその変化をざっくり学べて良い本だと思う。著者はアメリカ政治の研究者ではないものの、アメリカの政治制度をめぐる主要文献は参考文献として押さえており、流石だと思う。

www.shinchosha.co.jp

1 大統領・議会

ここからは研究を進めるにあたり、日本語を中心に先行研究の所在がわかる本、論文を紹介していきたい。無論、英語で読めるならどんどん調べるに越したことはない。

 

私がそうであったが、アメリカ政治に興味を持った時にまず目が行くのは大統領じゃないだろうか。(そうだよね?)

 

日本語で最もアメリカの大統領研究、議会研究をまとめているのが、松本俊太『アメリカ大統領は分極化した議会で何ができるか』(ミネルヴァ書房)の1-3章だ。アメリカ大統領、議会を対象とする主な研究を知りたければ、まずはここから入るのが理解が進むはずである。

www.minervashobo.co.jp

 

2 政党制

アメリカ政治といえば政党制も非常に特徴的だ。

 

本書はあくまで新書であり、先行研究のまとめとしては使いにくい。しかし、所々で先行研究への言及がある上に、末尾に参考文献がまとめられているので、比較的最近のアメリカ政党研究を知ろうとしたら、日本語で一番便利な本だと思う。

 

www.chuko.co.jp

3 官僚制(政官関係)

アメリカ官僚制、特に政官関係についてまとめているのが、曽我謙悟『官僚制研究の近年の動向 : エージェンシー理論・組織論・歴史的制度論』(上・下)だ。政官関係の主だった流れはこれでだいたい理解できる優れものだ。

ci.nii.ac.jp

4 選挙・有権者

この分野には非常に優れた教科書があって、飯田・松林・大村『政治行動論 有権者は政治を変えられるか』(有斐閣)だ。最近の研究まできちんと目配せしながらまとめてあるので非常に入門しやすい。

www.yuhikaku.co.jp

 

5 英語で探す

当然、どこかのタイミングで英語で先行研究を読む必要が出てくる。その場合、論文検索サイトを使って英語論文を探すのが王道だ。とりあえずAmerican Political Science Review (APSR)、American Journal of Political Science (AJPS)、Journal of Politics (JoP)といったいわゆるトップジャーナルで自分に関心の近い論文を探すことができれば、変な道に進んでしまうリスクは避けられる。ここで論文が見つけられない場合、多くの場合は検索の仕方が具体的すぎて間違っているので、抽象度を上げて数本はまず見つけよう。また、基本的に古いものよりも新しいものから始めよう。古い論文が質が低いと言う話ではなく、新しい論文の方が最近の重要文献までカバーしているはずであり、他の先行研究を探す際に便利だからだ。

 

しかし、抽象度を上げすぎると、論文が無数に出てきて困る。その辺りのバランスはなかなか難しい。Oxford Handbookシリーズは分野が概観できるので極めて便利である。特に、ざっくりとやる分野(大統領制と官僚制etc.)が決まっている場合は、該当する本の該当する論文を読んで、関連する概念や研究者、論文を見つけると早いであろう。ただ、物によっては既に古くなってしまったものもあるので注意が必要だ。

・The Oxford Handbook of American Political History (政治史・政策争点)

・The Oxford Handbook of American Political Development (政治史)

・The Oxford Handbook of American Political Parties and Interest Groups

・The Oxford Handbook of American Bureaucracy

・The Oxford Handbook of American Congress The Oxford Handbook of American Elections and Political Behavior

また、Annual Review of Political Science誌は同様にレビュー論文を掲載しており、論文探しの役に立つ。Oxford Handbookと両方読むと良いであろう。

 

なお、政治争点(史)に興味がある人は、なるべく、早いうちにThe Oxford Handbook of American Political Historyや The Oxford Handbook of American Political Developmentを読んで勉強するのが良いだろう。

 

そして、見つけること自体が評価される「お宝論文」を見つけてしまった場合、冷静になってなぜそこまで見つけることが難しかったか考え直そう。そのような論文に心をときめかせる経験を私も持っているが、どこかで冷静に突き放す必要がある。ただ、そこから思わぬ発想を生まれることは当然あるので、必要なのはバランスである。また、最終的に先行研究として引用する必要があるときには当然引用するべきである。

 

6 方法論

政治学において何らかの現象のメカニズムを解明しようと思った時、様々な方法論が存在する。最初は、自分の立てた問いにフィットしそうな方法・分析を探すと良いだろう。

6.0 とっかかりに

もしも計量分析に触れたことがなければ、まずはとっかかりに浅野・矢内『Rによる計量政治学』からはじめよう。最も基本的な分析である回帰分析をゴールに、計量分析のパワーに触れることができる、優れた入門書だと私は思う。

www.ohmsha.co.jp

一方で、近年の計量研究の発達により、本書でおさえられる方法論では入門としても少し物足りないものとなってしまった。その辺りのことを考えるのに、以下の本はとっかかりとして非常に優れている。

www.diamond.co.jp

また、計量研究が発達したことにより、既製の枠組みを使うとしても、その背景にある論理を知らなければ使いこなせないということは多々ある。その際、数理モデルは大きな役に立つ。数理モデルで考える楽しさは以下のシリーズが遊び心に溢れていて私は好きだ。

www.beret.co.jp

6.1 実証研究のバリエーション

アメリカ政治研究は、最新の方法論の実験場でもある。ある程度データ分析に触れたら、様々な方法論についてもある程度知っている必要がある。

 

方法論の方向性は大きく2つあり、因果推論と、計算社会科学である。とはいえ、これらは最近ではすっかり組み合わさっているように感じる。

 

また、この辺りの分野においては、もはや政治学か経済学か、あるいは社会科学かどうかは小さな問題だ。ちなみに、一流の政治学者、政治学的テーマで研究をする人の中には、GoogleFacebookのデータサイエンティストとして働いている人もいる。

 

これらの分野も既に日本語でいくつか出ている。

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

 

www.kspub.co.jp

www.kyoritsu-pub.co.jp

 

また、これらの分野の教科書は他のブログでも多数レビューされているのでそちらを参照してほしい。例えば、黒川先生は因果推論の教科書を多数紹介してくれている。

sites.google.com

6.2 数理モデル

数理モデルも重要な分野であり、アメリカ政治研究でも使われている。数理モデルによる現象の説明の数式化は論点整理にも便利なので、一度は勉強しておくと良いと思う。以下の教科書はアメリカの教科書をベースに書かれており、取り組みやすい。

www.yasushiasako.com

 6.3 定性的方法論

定性的な研究についても多くの参考書がある。その中で、加藤他『政治学の方法』第二章は有名どころを手堅くまとめていてコスパも良いのでオススメだ。個人的には最初からKKVというのはオススメしない。KKVとは何かを知らなければ尚更。

www.yuhikaku.co.jp

 

6.4 実験研究

近年特に発展が目まぐるしい分野。私自身勉強が必要な分野なのでここでは書かない。もうそろそろ新しい概説が出ないだろうか。

 

7 政治学一般

アメリカ政治研究は当然政治学の一ディスプリンであり、他の政治学諸分野と相互作用の中にある。そのため、アメリカ政治の教科書のみならず、政治学一般の教科書も読んでおくと理解も深まるであろう。その点、近年は読み易い教科書も充実していて恵まれているのを感じる。

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

8 その他研究ツール

簡単にアクセスできるデータセットへのアクセスについては、津田塾大の西川先生のホームページに便利なまとめがある。

www.masarunishikawa.com