マイ・スウィート・ビーンズ

齋藤崇治。東大博士課程で政治学を研究しています。

留学としての在外研究(2021/1/22更新)

博士課程における「留学」の場合、最近はPhD留学のことを指す場合が増えている。しかし、最終的に日本で博士号を取得する場合でも、「留学」は可能であるし、これまでも多くの日本の博士課程生が「留学」してきた。これは、学位を伴うものでなければ通常「在外研究」「交換プログラム」として行われる。しかし、これらの概念の違いは実際には曖昧だ。私は、「交換プログラム」の名目で在外研究しているしているようなものだし、そして現地の授業も聴講させてもらっている。「留学」「在外研究」「交換プログラム」、いずれの呼び名にせよ、私は今回の留学で複合的にメリットを享受している。

 

私自身は今現在PhDにも出願をしている。そのため、今回の在外研究は希望としてはその前段階という位置付けになっている。しかし、仮に博士号を日本を取るにしても博士課程中の在外研究は十分アリだと思っている。無論、在外研究としての留学にもデメリットがあるので、その点も含めて考えたい。なお、今回はコロナについてはあまり考えない。

 

在外研究留学の始まり

現在(2021/1 ~ 4)、私はアメリカで在外研究を行っている。専門がアメリカ政治であり、指導教員の先生から「アメリカ政治をやるなら早めにアメリカに行った方が良い」という指導を受けた。ということで、アメリカに滞在しつつ現地の先生に指導・アドバイスを受けるということを目標に、在外研究留学を検討した。

 

そこで見つけたのが、東京大学の交換プログラムである。指導を受けたい先生が明確にいてその人とコネクションがあるのなら自分で留学先を見つけても良いだろうが、今回私にはそのようなコネクションはなかった。そのため、このプログラムを利用し、バークレー校への留学に応募して留学の切符を獲得した。手続き上、私はバークレー校の「客員研究員」として現地に留学した。(この響き、好きである。)学内留学の類は学部生の頃から幾つか応募していたが、実はこれが初めての交換留学である。学内留学がとにかく狭き門なのに比べると、博士課程の在外研究留学はまだ通り易いように思える。

 

まずは、在外研究留学のメリットを紹介したい

 

在外研究留学のメリット1: 現地の授業を受けられる

今回の留学において、私は幸いバークレー校の授業を聴講している。私は客員研究員でバークレーの正規の学生ではないので、授業を履修することは当然できない。また、聴講も完全に先生方のご好意であり、「聴講できただけラッキー」という程度である。とりあえず私の取れる手は、先方にメールを送って許可をもらうことだけである。中には結局連絡が取れないで授業も受けられなかった先生もいた。また、どうしても受けたい先生については8回くらいメールを送って、2回目の授業から参加という場合もあった。人生、諦めたら試合終了である。

 

当然単位にはならないものの、政治学が盛んなアメリカのトップ校で大学院の授業を受けられることはやはりそれ自体が刺激である。これ幸いと、自分にとって馴染みの薄い手法や苦手(だけど研究に必要な)領域の勉強をしている。授業についてはまた筆を改めて書きたい。

 

在外研究留学のメリット2: 現地の学会・研究会への参加

各大学はうちうちに研究会を開催し、そこで初期段階のワーキングペーパーを披露しあっている。また、最近ではオンライン研究会の普及により、大学間の研究会も活発に行われるようになっている。先方にメールしたことにより、幾つかそうした研究会に潜ることができた。その場では、頻繁にビッグネームの発表と質疑応答を聞くことができ、非常に勉強になった。

 

この点についてはやはり当たり前にそのメリットを享受できるPhD学生が羨しく思う。しかし、コロナ禍がもたらす一つの福音は、オンライン化によってこうした研究会に日本から潜りやすくなったことであろう。実際、大学間研究会については帰国後も参加するつもりだ。ゆくゆくは発表もしたい。

 

ネットワークというほどのものかは分からないが、こうして得た研究会という足掛かりは、今後の研究活動にとって案外鍵になる気がしている。

 

一方で、幾つか欠点もある。

在外研究留学の欠点1:博士号取得の遅れ

最近文系においても博士号を3年で取得するケースが増えている。その最大の転機は、学振PDが文字通りポスドクにしか認められなくなったことだと私は考えている。つまり、博士課程に4年以上いる場合、財政的にそれを支えてくれるチャンスがほとんどなくなってしまった。

 

ここに在外研究留学の最大の欠点があると考える。すなわち、在外研究を博士課程ですることは、博士号取得時期という点からは多くの場合マイナスである。そして在外研究をしたからといって博士課程4年目を財政的に支えてくれる機関はない。周りの話を聞く限り、3年という期間で博士論文を書き上げるには脇目を振っている時間なんてないというのが実情だ。こういう点から考えれば、在外研究留学は博士課程中はあまり勧められた話ではない。

 

しかし、在外研究は視野を広げるチャンスであることは言うまでもない。個人的には、学振DC1の支給期間が3年から4年に伸びてくれれば、在外研究留学する人も増えると思うのだが。。。

 

在外研究留学の欠点2: ファンディング獲得の必要性

PhD留学の最も優れた点の一つはファンディングである。多くのPhD留学志望者が考えるアメリカでは、ティーチングの負担があるとはいえ、PhD在学中の5年間は多くの場合給料をもらえる。

 

それに比べれば客員研究員は「お客様」である。今回、バークレーで客員研究員をするにあたり、トータルで10万円ほどのフィーを支払った。もちろん、給料は存在しない。また、現地での生活費(家賃含む)を賄う手段を考えなければならない。例えば、今回私はカリフォルニア州バークレー市の隣のアルバニー市に居を構えたが、そこの家賃は月1500ドル(光熱費込み)だった。勉強・研究くらいしかすることもないのでその他の食費・日用品費は月600ドルで、計2100ドルの出費である。アルバニーの住居事情故であるが、これは学振DC1の月支給額を超えている。

 

とはいえ、この点はそこまで大きな問題とはならないと考える。まず、学振DC1等に通っていれば、科研費から日当が支出可能である。加えて、日本学術振興会は、若手研究者海外挑戦プログラムを実施している。それに通ると現地での生活費相当額をもらえるが、これは学振DC1・DC2と併給が可能だ。在外研究留学の不人気故か、倍率も低めである。(そして、何故かあまり知られていない)

www.jsps.go.jp

 

他にも、諸財団がPhD留学のみならず在外研究留学にも助成を出しているので確認してほしい。

 

このように、PhD留学にかかる奨学金などと比べると恐らくファンディング獲得の難易度は低い。ファンディング獲得のチャンスを待って在外研究を始めると言うのが賢明であろう。

 

在外研究留学の欠点3: 全てはあなた次第

在外研究留学の大きな問題は、向こうから手を進んで出してくれるということはまるで期待できないということだ。無論、博士課程だろうとPhDだろうと、研究者キャリアは自分でどうにかしなければならない程度は大きい。しかし、在外研究留学のファンディングや授業、指導、ネットワーキングの類は、全てどれだけアグレッシブになれるかによる。アグレッシブさの必要性は博士課程・PhD以上であり、向き不向きはあるだろう。ただ話を聞く感じポスドク期の方がその程度は強い気がするので、私はその予行練習として捉えたい。

 

偉そうに書いているが、別に私も上手くいってる訳ではない。当初から懸念していたことではあるが、今回の留学では、コロナ禍というのもありネットワーキングがなかなか困難なように思う。これに関しては、ポスドク以降で再チャレンジしたい。

 

まとめ:在外研究留学でも意外と(頑張れば)メリットを享受できる

在外研究留学でも意外と(頑張れば)メリットを享受できる、これに尽きると思う。無論、中にはPhD留学した方がより大きく利益を得られるものも多い。とはいえ、最終的にどこで博士号を取るかは極めて属人的なことである。最終的に日本で博士号を取る人にも、在外研究留学は是非とも考えてみてほしい。

 

ただ、政策的問題として、D4でももらえる奨学金は一層拡充してほしいと思う。チャレンジを求める政策立案者の意思は立派ではあるが、現実問題としてある程度の確実性がなければチャレンジはできない。そこでチャレンジするのはただの博打である。