マイ・スウィート・ビーンズ

齋藤崇治。東大博士課程で政治学を研究しています。

2020年(2021Fall)PhD出願感想戦 ある不合格者の話

2020年末、私はアメリカPhD(政治学)に出願した。出願は今回で2回目である。前回は一校ウェイティング・リスト(補欠)には選ばれ現地にまで足を運んだものの、残念ながら最終的にrejectであった。そして今回はウェイティング・リストにもかからずあっさり終わってしまった。今は脱力感・無力感が大きい。

 

今回の記事では、2019年出願と比較して戦略を変えた部分、強化した部分について振り返りたい。そして足りなかった部分について考えたい。

 

なお、政治学分野のアメリカPhD出願については、JSQPS(計量・数理政治研究会)が定期的に説明会を行っているので、まずはそちらに参加することをオススメしたい。メーリングリストに入っていない人は今から入ろう。

sites.google.com

また、PhD留学一般のストラテジーについてはオックスフォード大に留学された向山さんがまとめているので参照されたい。

penguinist-efendi.hatenablog.com

 

2019年出願

私はそもそもPhD出願を決断した時期が極めて遅く、東大博士課程進学直前の2019年3月である。

 

2019年出願を振り返って改めて思うのは他の出願者と比べての経験不足だ。例えば、日本の大学からアメリカ博士課程留学した人たちの中には学部時代に留学し、その時点で将来のアメリカ博士課程出願を決心している人も散見される。無論、学部時点で既にTOEFLの勉強を頑張っているという点も私と比べてリードしている点であろう。

 

その上で、Statement of Purpose、Writing Sample、推薦状の準備をしなければならない。Writing Sampleのための論文の準備は、2019年4月から急ピッチで始めたものであり今から見ても穴が多かった他、推薦状のための戦略にも欠けていた。このあたりは大きな反省であり、2020年出願に向けて改善した部分である。

 

2020年出願

さてここからは2020年出願に向けた戦略を紹介したい。無論、経験不足は如何ともし難いのでそれをどう乗り越えるかという話になる。

1 Statement of Purpose

Statement of Purposeは、結局優れた研究計画か、具体的な目に見える成果をどれだけ書けるかである。不要な形容詞は全て取っ払い、成績表に掲載された成績、留学歴、RA歴など目に見える経歴を、推薦状でどのように書いてもらえるかを想定しつつ、どれだけ書けるかである。そして、それらを自分のしたい研究計画に説得的に結び付けられるかである。

 

そのため、SoP準備とはCVの見た目(中身)を充実させることでもある。これは結局推薦状を書いてもらう先生からしても推薦状を書きやすくすることにつながる。2020年出願では大きく次のことを改善した。

a 留学歴の追加

留学歴が実際にどれだけ重要なのかは私は知らない。とはいえ、アメリカPhDに留学する先輩の多くはそれが初めての留学でないことは確かである。そのためもあり、2019年出願段階で、2020年出願に向けて留学をすることは検討していた。

 

そのため、私はバークレーにVisiting Student Scholarとして留学することを2019年出願とほぼ同タイミングで決め、出願した。(詳しい経緯は以下)

 

my-sweet-beans.hatenablog.com

当然であるが、PhD留学と比べればaccpetもfunding獲得もハードルが遥かに低い。これにより経歴としてのアメリカ留学を追加することとなった。そしてこれは奨学金受給というCVに書ける経歴でもある。

 

ただし、この方法にも難点はある。バークレーで授業を受けたものの、あくまで聴講なので成績表には反映されない。また、出願タイミングが丁度最初の授業の途中のタイミングであった。そのため、現地の先生に推薦状を書いてもらうということは現実的でなかった。なので、この留学がそもそも出願にどの程度プラスだったかは疑問が残る。理想を言えばあと一年早く留学して推薦状のお願いをすればよかったのかもしれない。

 

とはいえ、このタイミングで留学し現地の授業も受けたことは、私にとって価値あるものだったと思う。また、上記投稿で紹介したが、日本で博士号を取得する分には在外研究は悪くない選択である。

 

b 国際学会での研究発表

自分にアメリカ博士課程での研究遂行能力があることを示す経歴とは何であろうか。一番は国際的な査読論文を既に出版していることであろう。しかし、政治学ではアメリカでそうした人はちらほらいるものの、それがスタンダードになっているとは到底言えない。また、難易度の高い授業でハイパフォーマンスを示すこともその一つであろうが、これはどちらかというと推薦状の問題である。

 

今回、私が採用した研究遂行能力アピールの方法の一つは国際学会での発表だ。特に、政治学では有名なAmerican Political Sciecne Association Annual Meetingでの発表だ。無論、政治学においては査読論文と学会発表は雲泥の差なので優れたサインになるとは言えないが、それでもメジャーな国際学会の中では最も倍率が高い。幸い、2019年出願直後に出したプロポーザルがAPSAに通り、夏に無事発表を終えたので経歴として追加した。

 

c 研究関心をより幅広い領域に位置付ける

当然、自分の研究テーマをブラシュアップすることも重要だ。出願するからにはその大学の誰に読んで欲しいかは考えるだろうが、当然、その先生が読むとは限らない。元々私は「政治家による官僚の統制」に興味があったが、それを比較政治経済研究として捉える書き方をした。前者がどちらかと言うとPublic Administration的関心なのに対して、後者でより広く政治学者の関心を得られるように変えた訳だ。

 

2 推薦状の戦略

推薦状については、書く側も書いてもらう側も以下のページのことは最低限知っておくべきである。

iwasakiichiro.info

推薦状が書く側にとっても極めて重要な書類であり、それ故出願選考においても重要な選考材料として役立てられているのもわかる気がする。

 

無論、いかなる人物に推薦状を書いてもらうべきかは重要なテーマであるが、誰に書いてもらえるかは、これまた難しい問題である。よく言われるのは「アメリカで有名研究者に強力な推薦状を書いてもらう」である。しかし、ここは日本なので、その中でアメリカで有名な研究者を探し、またそんな優れた人に高く評価してもらうことは、共に難しいのは明らかだろう。この辺りについては、例えばアメリカの大学で学部や修士を卒業・修了することはそのまま有利になる部分だろうなとは思う。ただし、日本にいても、この部分で努力することは可能だ。

penguinist-efendi.hatenablog.com

securitygame.hatenablog.com

また、近年では有名な先生のRA・プレドクを経由して博士課程に進学するというルートも多い(らしい)。これは日本の学生にとってどれだけアクセス可能なものなのかは分からない。

 

なので、私は過去に多くの学生のPhD出願推薦状を書いている先生にお願いするという戦略を採用した。推薦状文化は日米で大きく違い、アメリカで評価される推薦状を書くには、最低限上記サイトの知識は必須だからである。それは結局、すでに多くの推薦状を書いている先生と言うことになる。なので私はPhD留学した先輩方に誰に推薦状をお願いしたのかを聞き、その先生方にお願いした。

 

また、自分がSoPに盛り込みたい経験について知ってもらっていることも重要だろう。そのため、上記の先生方のうち、学会・研究会・ゼミで発表して自分の存在を認知してもらっている先生方にお願いした。

 

ただ、日本にいながら政治学分野で良い推薦状を得るにはどうすれば良いかはいまだよく分からない。とはいえ、既に多くの学生が今回私がお願いした先生方の推薦状を得て留学している訳で、この部分は悪い戦略ではなかったと考える。

  

2020年出願で強化できなかった部分

色々強化したつもりではあるが、奨学金に一つも引っかからなかったのは明らかな失敗であった。これに関してはもっと出すべきであったと反省している。

 

また、これは強化できなかったと言うよりは意思決定なのだが、出願先は前回より少ないU.S. News政治学ランキングトップ20の中の12校に絞った。この応募からしてタフな戦いになることは想像できた話ではある。

 

そして英語。2019年出願時はTOEFLが100-105であったが今回もこのレンジであった。より高い点数が望ましいのは間違いないであろう。

 

もしも時を戻せるとしたら?

極論、アメリカの学部に行くべきだったと思わなくもないが、それは無理筋なので措いておく。ただ、多分もっと早い時期からアメリカPhDに応募しただろう。そして奨学金をより強い覚悟で取りに行くだろう。

 

アメリカPhDに早い段階で応募するべきなのは、PhD3浪が決して珍しくないだけではない。結局、早い段階で応募するために早い段階で研究業績をあげる、英語の勉強をするといった努力は、研究者キャリアにとって確実にプラスである。それに加え、出願のパフォーマンスによっては、一部の大学からMAのオファーをされる。そして、中にはPre-PhDを明確に謳い、名門PhD輩出を掲げたプログラムもある。

 

しかし、このオファーを受けるには結局高い授業料が必要だ。また、PhDと異なり生活費の支給は期待できない。そのため、MAでこそ奨学金が必須となる。(学費の高いアメリカのMAがPhD予備校と化すのは高等教育のアクセスとして問題があると思うが)そのため、奨学金を狙った上でMAを次善の策にするのが若い人の戦略として良いであろう。

 

しかし、MAのオファーですらも当然選抜があるので、結局もっと若いうちから研究に励むべきだったというどうしようもないifになる。政治学の中でも特に計算社会科学や行動計量学的な分野では学部生から学会発表をするのは珍しくない。そういう人であれば、MAを経由したPhDも十分狙えるであろう。ただ、学部生からこうした業績をあげるのは本人の能力も重要ではあるが、環境がより重要だ。もしも、自分がそういう環境にいないのなら、まずそのような環境を探すのが良いのかもしれない。

 

最後に

念のために記すと別にこの記事はアクセプトを得られなかったことへの呪詛ではない。あるいは「こんなに頑張ったのに」という言い訳ではない。結局、今年強化した部分、留学、国際学会はいずれも弱かったということになる。留学を一年早めてそこで推薦状を得ていたらよかったのかもしれないが、それによってアクセプトに至るのかは定かではない。あるいは今取り組んでいる論文を既に出版していたら良かったのかもしれない。2020年出願というタイミングもあろう。とはいえ、若干の授業料免除付きでMAのオファーはあったので概ね間違いではなかったのだと思う。

 

分野は違えど、研究一般、留学戦略のいずれにおいても高みを目指して一生懸命頑張っている方々がしっかりアクセプトされる印象だ。

MIT五十嵐さんのブログ(Computer Science)

アメリカ博士課程留学 − 立志編 - 旅する情報系大学院生

メリーランド大立石さんの寄稿(経済学)

https://www.funaifoundation.jp/scholarship/202007tateishiyasuka.pdf

 

総じて言えば学部生の頃からの研鑽という点で彼らに負けているし、またたった2度の全敗で出願から撤退するというのも執着が足りないのかもしれない。出願戦略設定の「ミス」もあるだろう。特に、PhD留学への執着は、アクセプトのために必須であるように思う。そして執着の重要性を考えると、既に挙げたように早いうちから留学を計画し準備することもまた重要であろう。見事アクセプトされた方々に学部で交換留学をした人たちが多く見えるのはこの部分が大きいのだと思う。

 

とは言え、時間は巻き戻せず有限であり、PhD留学するならするからには得たいものというのは当然ある。私の場合は、PhD留学そのものには拘泥せず東大で博士号を取得することも十分想定していた。また、3回目の挑戦、5回目の挑戦でアクセプトされるのかもしれないが、その価値は私にとっては大きくなかった。(繰り返しゲームにおける割引因子である。)そういう観点からの今回の戦略なのであり、今回の結果である。どこに出願するか、何度挑戦するかという感覚はその人のものによるので、あくまで私の場合の話である。

 

さて私はこれから博士論文の完成を目指すことになる。しばらく凹むだろうが、場所は違えど世界の知への貢献に向けて精進するつもりだ。当然、学問に場所は関係ない。

 

一方で、今後アメリカPhD挑戦を目指す方は何かの参考になれば幸いだ。成功を祈ってる。