マイ・スウィート・ビーンズ

齋藤崇治。東大博士課程で政治学を研究しています。

留学としての在外研究(2021/1/22更新)

博士課程における「留学」の場合、最近はPhD留学のことを指す場合が増えている。しかし、最終的に日本で博士号を取得する場合でも、「留学」は可能であるし、これまでも多くの日本の博士課程生が「留学」してきた。これは、学位を伴うものでなければ通常「在外研究」「交換プログラム」として行われる。しかし、これらの概念の違いは実際には曖昧だ。私は、「交換プログラム」の名目で在外研究しているしているようなものだし、そして現地の授業も聴講させてもらっている。「留学」「在外研究」「交換プログラム」、いずれの呼び名にせよ、私は今回の留学で複合的にメリットを享受している。

 

私自身は今現在PhDにも出願をしている。そのため、今回の在外研究は希望としてはその前段階という位置付けになっている。しかし、仮に博士号を日本を取るにしても博士課程中の在外研究は十分アリだと思っている。無論、在外研究としての留学にもデメリットがあるので、その点も含めて考えたい。なお、今回はコロナについてはあまり考えない。

 

在外研究留学の始まり

現在(2021/1 ~ 4)、私はアメリカで在外研究を行っている。専門がアメリカ政治であり、指導教員の先生から「アメリカ政治をやるなら早めにアメリカに行った方が良い」という指導を受けた。ということで、アメリカに滞在しつつ現地の先生に指導・アドバイスを受けるということを目標に、在外研究留学を検討した。

 

そこで見つけたのが、東京大学の交換プログラムである。指導を受けたい先生が明確にいてその人とコネクションがあるのなら自分で留学先を見つけても良いだろうが、今回私にはそのようなコネクションはなかった。そのため、このプログラムを利用し、バークレー校への留学に応募して留学の切符を獲得した。手続き上、私はバークレー校の「客員研究員」として現地に留学した。(この響き、好きである。)学内留学の類は学部生の頃から幾つか応募していたが、実はこれが初めての交換留学である。学内留学がとにかく狭き門なのに比べると、博士課程の在外研究留学はまだ通り易いように思える。

 

まずは、在外研究留学のメリットを紹介したい

 

在外研究留学のメリット1: 現地の授業を受けられる

今回の留学において、私は幸いバークレー校の授業を聴講している。私は客員研究員でバークレーの正規の学生ではないので、授業を履修することは当然できない。また、聴講も完全に先生方のご好意であり、「聴講できただけラッキー」という程度である。とりあえず私の取れる手は、先方にメールを送って許可をもらうことだけである。中には結局連絡が取れないで授業も受けられなかった先生もいた。また、どうしても受けたい先生については8回くらいメールを送って、2回目の授業から参加という場合もあった。人生、諦めたら試合終了である。

 

当然単位にはならないものの、政治学が盛んなアメリカのトップ校で大学院の授業を受けられることはやはりそれ自体が刺激である。これ幸いと、自分にとって馴染みの薄い手法や苦手(だけど研究に必要な)領域の勉強をしている。授業についてはまた筆を改めて書きたい。

 

在外研究留学のメリット2: 現地の学会・研究会への参加

各大学はうちうちに研究会を開催し、そこで初期段階のワーキングペーパーを披露しあっている。また、最近ではオンライン研究会の普及により、大学間の研究会も活発に行われるようになっている。先方にメールしたことにより、幾つかそうした研究会に潜ることができた。その場では、頻繁にビッグネームの発表と質疑応答を聞くことができ、非常に勉強になった。

 

この点についてはやはり当たり前にそのメリットを享受できるPhD学生が羨しく思う。しかし、コロナ禍がもたらす一つの福音は、オンライン化によってこうした研究会に日本から潜りやすくなったことであろう。実際、大学間研究会については帰国後も参加するつもりだ。ゆくゆくは発表もしたい。

 

ネットワークというほどのものかは分からないが、こうして得た研究会という足掛かりは、今後の研究活動にとって案外鍵になる気がしている。

 

一方で、幾つか欠点もある。

在外研究留学の欠点1:博士号取得の遅れ

最近文系においても博士号を3年で取得するケースが増えている。その最大の転機は、学振PDが文字通りポスドクにしか認められなくなったことだと私は考えている。つまり、博士課程に4年以上いる場合、財政的にそれを支えてくれるチャンスがほとんどなくなってしまった。

 

ここに在外研究留学の最大の欠点があると考える。すなわち、在外研究を博士課程ですることは、博士号取得時期という点からは多くの場合マイナスである。そして在外研究をしたからといって博士課程4年目を財政的に支えてくれる機関はない。周りの話を聞く限り、3年という期間で博士論文を書き上げるには脇目を振っている時間なんてないというのが実情だ。こういう点から考えれば、在外研究留学は博士課程中はあまり勧められた話ではない。

 

しかし、在外研究は視野を広げるチャンスであることは言うまでもない。個人的には、学振DC1の支給期間が3年から4年に伸びてくれれば、在外研究留学する人も増えると思うのだが。。。

 

在外研究留学の欠点2: ファンディング獲得の必要性

PhD留学の最も優れた点の一つはファンディングである。多くのPhD留学志望者が考えるアメリカでは、ティーチングの負担があるとはいえ、PhD在学中の5年間は多くの場合給料をもらえる。

 

それに比べれば客員研究員は「お客様」である。今回、バークレーで客員研究員をするにあたり、トータルで10万円ほどのフィーを支払った。もちろん、給料は存在しない。また、現地での生活費(家賃含む)を賄う手段を考えなければならない。例えば、今回私はカリフォルニア州バークレー市の隣のアルバニー市に居を構えたが、そこの家賃は月1500ドル(光熱費込み)だった。勉強・研究くらいしかすることもないのでその他の食費・日用品費は月600ドルで、計2100ドルの出費である。アルバニーの住居事情故であるが、これは学振DC1の月支給額を超えている。

 

とはいえ、この点はそこまで大きな問題とはならないと考える。まず、学振DC1等に通っていれば、科研費から日当が支出可能である。加えて、日本学術振興会は、若手研究者海外挑戦プログラムを実施している。それに通ると現地での生活費相当額をもらえるが、これは学振DC1・DC2と併給が可能だ。在外研究留学の不人気故か、倍率も低めである。(そして、何故かあまり知られていない)

www.jsps.go.jp

 

他にも、諸財団がPhD留学のみならず在外研究留学にも助成を出しているので確認してほしい。

 

このように、PhD留学にかかる奨学金などと比べると恐らくファンディング獲得の難易度は低い。ファンディング獲得のチャンスを待って在外研究を始めると言うのが賢明であろう。

 

在外研究留学の欠点3: 全てはあなた次第

在外研究留学の大きな問題は、向こうから手を進んで出してくれるということはまるで期待できないということだ。無論、博士課程だろうとPhDだろうと、研究者キャリアは自分でどうにかしなければならない程度は大きい。しかし、在外研究留学のファンディングや授業、指導、ネットワーキングの類は、全てどれだけアグレッシブになれるかによる。アグレッシブさの必要性は博士課程・PhD以上であり、向き不向きはあるだろう。ただ話を聞く感じポスドク期の方がその程度は強い気がするので、私はその予行練習として捉えたい。

 

偉そうに書いているが、別に私も上手くいってる訳ではない。当初から懸念していたことではあるが、今回の留学では、コロナ禍というのもありネットワーキングがなかなか困難なように思う。これに関しては、ポスドク以降で再チャレンジしたい。

 

まとめ:在外研究留学でも意外と(頑張れば)メリットを享受できる

在外研究留学でも意外と(頑張れば)メリットを享受できる、これに尽きると思う。無論、中にはPhD留学した方がより大きく利益を得られるものも多い。とはいえ、最終的にどこで博士号を取るかは極めて属人的なことである。最終的に日本で博士号を取る人にも、在外研究留学は是非とも考えてみてほしい。

 

ただ、政策的問題として、D4でももらえる奨学金は一層拡充してほしいと思う。チャレンジを求める政策立案者の意思は立派ではあるが、現実問題としてある程度の確実性がなければチャレンジはできない。そこでチャレンジするのはただの博打である。

 

2020年振り返り

2020年は博士課程2年目であった。博士課程で行う研究が進む時期であり、博士課程の研究成果が出始める時期である。

 

しかし、コロナ禍である。私にとっても初の国際学会発表のための渡航キャンセルや、初の在外研究の縮小など影響は大きかった。とはいえ、博論に必要なデータセットは既にあり、在宅研究に移行できたのは不幸中の幸いであった。

 

そして何よりの収穫は、AOPSSS – Asian Online Political Science Seminar Series で発表できたことであった。2020年はオンライン学会が一気に隆盛し、それまで会う機会がなかったであろう研究者に会うことができ、また自分の研究を知ってもらうことができた。私は現在日本でアメリカ政治を研究しているため、日本にいながらアメリカの研究者にコメントをもらえるのは、とても価値あることだと思う。また、オンライン学会は交通費が要らないということも大きい。この中で知り合った先生には今でもお世話になっている。この機会を提供してくれた先生方に感謝したい。

 

ここで得たコメントを元に、2020年は4回研究を査読誌に投稿した。しかし、いずれもrejectであった。とはいえ、うち2回はreviewがついていたので、それを元に現在も論文の修正作業を進めている。結局、自分の論文を一番真剣に読んでくれるのは査読者なので、彼らに勉強させてもらっているという感が強い。

 

また、オンライン学会ブームのおかげで、アメリカ大統領研究者の研究会に潜っている。日本からでも参加できるのは本当に幸いで、ゆくゆくは発表もしたいものだ。

 

また、人生で初めて自分の論文が引用された。その論文もまだ研究会報告であったが、まずは引用されたというのが本当に嬉しい。まだ一本も査読に通せてないが、コンスタントに出して引用されるようになりたいものだ。 

 

2021年どうするかについてはPhD出願の結果が出てからまた考えたい。

もしもアメリカ政治を勉強(研究)したいと思ったら 2024/06/11更新

アメリカ政治はニュースでよく見るし、身近な存在だ。

 

しかし、アメリカ政治(研究)にどのように入門するかは意外と難しい。今回は、アメリカ政治研究の入門~先行研究レビューの役に立つ論文・書籍を紹介したい。なお、私は、現代アメリカ政治(特に、大統領制・官僚制)を中心テーマとしており、外交・国際政治分野や政治史・外交史分野、思想については立ち入った話をしないしできない。

 

個人的に、何かに入門する時は、最終的に読めるようになるべき基本書と、最初とっかかりとして読むべき入門書の両方を読むべきだと思っている。最初から基本書だけ読んでいたら挫折するに決まっているからだ。一方で、両者はある程度区別される。入門書だけ読んでも深い理解は当然得られない。入門書で「ズル」をして少しずつ研究につながる論文・基本書に駒を進めていくと良いだろう。

 

そして、更新を重ねているうちに冗長になってしまった。しかし、これを全部読まないと卒論を書けない、修士・博士に進学するべきではないなど言うつもりは当然ない。どちらかと言うと、勉強の見取り図にして欲しいと言う程度である。

 

0 とっかかりに

 アメリカ政治を学ぶ際、最低限歴史と制度についてざっくり知っておくことは望ましいし、最初から細かい部分を勉強しても仕方ない。その際参考になるのは、岩波新書のシリーズ アメリカ合衆国史シリーズだ。特に第三巻は、アメリカ政治を学ぶ上で重要な時代を扱っている。個人的には通史はこのシリーズで十分だと思う。(と言っても私は歴史の専門家ではないが)

www.iwanami.co.jp

また、制度面では、ベストセラーになった『民主主義の死に方』はなんだかんだ政治制度とその変化をざっくり学べて良い本だと思う。著者はアメリカ政治の研究者ではないものの、アメリカの政治制度をめぐる主要文献は参考文献として押さえており、流石だと思う。

www.shinchosha.co.jp

また、アメリカ政治の特徴(大統領制、議会etc)を捉えた教科書としては有斐閣の岡山・前嶋先生の教科書が最近の英語研究も拾っていて参考になるだろう。

www.yuhikaku.co.jp

1 大統領・議会

ここからは研究を進めるにあたり、日本語を中心に先行研究の所在がわかる本、論文を紹介していきたい。無論、英語で読めるならどんどん調べるに越したことはない。

 

私がそうであったが、アメリカ政治に興味を持った時にまず目が行くのは大統領じゃないだろうか。(そうだよね?)

 

日本語で最もアメリカの大統領研究、議会研究をまとめているのが、松本俊太『アメリカ大統領は分極化した議会で何ができるか』(ミネルヴァ書房)の1-3章だ。アメリカ大統領、議会を対象とする主な研究を知りたければ、まずはここから入るのが理解が進むはずである。

www.minervashobo.co.jp

 

2 政党制

アメリカ政治といえば政党制も非常に特徴的だ。

 

本書はあくまで新書であり、先行研究のまとめとしては使いにくい。しかし、所々で先行研究への言及がある上に、末尾に参考文献がまとめられているので、比較的最近のアメリカ政党研究を知ろうとしたら、日本語で一番便利な本だと思う。

 

www.chuko.co.jp

3 官僚制(政官関係)

アメリカ官僚制、特に政官関係についてまとめているのが、曽我謙悟『官僚制研究の近年の動向 : エージェンシー理論・組織論・歴史的制度論』(上・下)だ。政官関係の主だった流れはこれでだいたい理解できる優れものだ。

ci.nii.ac.jp

4 選挙・有権者

この分野には非常に優れた教科書があって、飯田・松林・大村『政治行動論 有権者は政治を変えられるか』(有斐閣)だ。最近の研究まできちんと目配せしながらまとめてあるので非常に入門しやすい。

www.yuhikaku.co.jp

 

5 英語で探す

当然、どこかのタイミングで英語で先行研究を読む必要が出てくる。その場合、論文検索サイトを使って英語論文を探すのが王道だ。とりあえずAmerican Political Science Review (APSR)、American Journal of Political Science (AJPS)、Journal of Politics (JoP)といったいわゆるトップジャーナルで自分に関心の近い論文を探すことができれば、変な道に進んでしまうリスクは避けられる。ここで論文が見つけられない場合、多くの場合は検索の仕方が具体的すぎて間違っているので、抽象度を上げて数本はまず見つけよう。また、基本的に古いものよりも新しいものから始めよう。古い論文が質が低いと言う話ではなく、新しい論文の方が最近の重要文献までカバーしているはずであり、他の先行研究を探す際に便利だからだ。

 

しかし、抽象度を上げすぎると、論文が無数に出てきて困る。その辺りのバランスはなかなか難しい。Oxford Handbookシリーズは分野が概観できるので極めて便利である。特に、ざっくりとやる分野(大統領制と官僚制etc.)が決まっている場合は、該当する本の該当する論文を読んで、関連する概念や研究者、論文を見つけると早いであろう。ただ、物によっては既に古くなってしまったものもあるので注意が必要だ。

・The Oxford Handbook of American Political History (政治史・政策争点)

・The Oxford Handbook of American Political Development (政治史)

・The Oxford Handbook of American Political Parties and Interest Groups

・The Oxford Handbook of American Bureaucracy

・The Oxford Handbook of American Congress The Oxford Handbook of American Elections and Political Behavior

また、Annual Review of Political Science誌は同様にレビュー論文を掲載しており、論文探しの役に立つ。Oxford Handbookと両方読むと良いであろう。

 

なお、政治争点(史)に興味がある人は、なるべく、早いうちにThe Oxford Handbook of American Political Historyや The Oxford Handbook of American Political Developmentを読んで勉強するのが良いだろう。

 

そして、見つけること自体が評価される「お宝論文」を見つけてしまった場合、冷静になってなぜそこまで見つけることが難しかったか考え直そう。そのような論文に心をときめかせる経験を私も持っているが、どこかで冷静に突き放す必要がある。ただ、そこから思わぬ発想を生まれることは当然あるので、必要なのはバランスである。また、最終的に先行研究として引用する必要があるときには当然引用するべきである。

 

6 方法論

政治学において何らかの現象のメカニズムを解明しようと思った時、様々な方法論が存在する。最初は、自分の立てた問いにフィットしそうな方法・分析を探すと良いだろう。

6.0 とっかかりに

もしも計量分析に触れたことがなければ、まずはとっかかりに浅野・矢内『Rによる計量政治学』からはじめよう。最も基本的な分析である回帰分析をゴールに、計量分析のパワーに触れることができる、優れた入門書だと私は思う。

www.ohmsha.co.jp

一方で、近年の計量研究の発達により、本書でおさえられる方法論では入門としても少し物足りないものとなってしまった。その辺りのことを考えるのに、以下の本はとっかかりとして非常に優れている。

www.diamond.co.jp

また、計量研究が発達したことにより、既製の枠組みを使うとしても、その背景にある論理を知らなければ使いこなせないということは多々ある。その際、数理モデルは大きな役に立つ。数理モデルで考える楽しさは以下のシリーズが遊び心に溢れていて私は好きだ。

www.beret.co.jp

6.1 実証研究のバリエーション

アメリカ政治研究は、最新の方法論の実験場でもある。ある程度データ分析に触れたら、様々な方法論についてもある程度知っている必要がある。

 

方法論の方向性は大きく2つあり、因果推論と、計算社会科学である。とはいえ、これらは最近ではすっかり組み合わさっているように感じる。

 

また、この辺りの分野においては、もはや政治学か経済学か、あるいは社会科学かどうかは小さな問題だ。ちなみに、一流の政治学者、政治学的テーマで研究をする人の中には、GoogleFacebookのデータサイエンティストとして働いている人もいる。

 

これらの分野も既に日本語でいくつか出ている。

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

 

www.kspub.co.jp

www.kyoritsu-pub.co.jp

 

また、これらの分野の教科書は他のブログでも多数レビューされているのでそちらを参照してほしい。例えば、黒川先生は因果推論の教科書を多数紹介してくれている。

sites.google.com

6.2 数理モデル

数理モデルも重要な分野であり、アメリカ政治研究でも使われている。数理モデルによる現象の説明の数式化は論点整理にも便利なので、一度は勉強しておくと良いと思う。以下の教科書はアメリカの教科書をベースに書かれており、取り組みやすい。

www.yasushiasako.com

 6.3 定性的方法論

定性的な研究についても多くの参考書がある。その中で、加藤他『政治学の方法』第二章は有名どころを手堅くまとめていてコスパも良いのでオススメだ。個人的には最初からKKVというのはオススメしない。KKVとは何かを知らなければ尚更。

www.yuhikaku.co.jp

 

6.4 実験研究

近年特に発展が目まぐるしい分野。私自身勉強が必要な分野なのでここでは書かない。もうそろそろ新しい概説が出ないだろうか。

 

7 政治学一般

アメリカ政治研究は当然政治学の一ディスプリンであり、他の政治学諸分野と相互作用の中にある。そのため、アメリカ政治の教科書のみならず、政治学一般の教科書も読んでおくと理解も深まるであろう。その点、近年は読み易い教科書も充実していて恵まれているのを感じる。

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

www.yuhikaku.co.jp

 

 

自己紹介 2020/01/17更新

初めまして。齋藤崇治といいます。

twitter.com

 

東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程で政治学の研究をしています。現在の研究テーマは、アメリカ政官関係です。政策をめぐる調整と、大統領の働きを主たる研究テーマとしています。(研究面は以下に記載)

sites.google.com

 

ブログの目的としては

1 研究成果の宣伝(アウトリーチ)

2 国際的な活躍にむけた暗中模索(まだ活躍してません)

3 その他情報紹介

が主になるかと思います。

 

これまでに、アメリカ政治研究入門記事( もしもアメリカ政治を勉強(研究)したいと思ったら )と、政治学研究者向け情報記事(Takaharu Saito Political Science - 政治学研究者志望者向けTips)を書きました。

 

近いうちに、自分の研究に関する記事と、留学出願(まだ結果出てません)に関する記事を書きたいと思っています。

 

よろしくお願いします。

国内研究者外貨支払い問題 (2021/5/20更新)

研究者はなんだかんだ国際的な仕事である。修士・博士課程でも国際学会への参加することはもはや珍しくない。在外研究することもある。

 

そのため、外貨で支払う機会が多い。とはいえクレジットカードがあれば、私のように国内にいることが多い研究者の外貨支払いはそれで済むし、済ませている人は多いだろう。

 

しかし、クレジットカードには外貨支払いに際しての為替手数料が存在する。今回は、この為替手数料から逃れるための苦闘を紹介したい。なお、基本的に今回は主要通貨(特にアメリカドル)について紹介する。

 

結論から言うと、おおよそ2ポイントは得になる計算である。まぁ、そこまでして為替手数料から逃れるメリットはないのかもしれない。なお、海外送金の場合はWise、現地通貨受け取りの場合は現地口座開設の方が簡便であろう。

transferwise.com

 

研究者が外貨を支払う場面

研究者が外貨を使う場面は意外と多い。比較対象が商社マンでもない限り研究者はなんだかんだ海外出張も多い(多かった)。研究者が外貨を使う場面はいくつかある。

・国際学会のメンバーシップ、学会参加、投稿料

・在外研究、国際学会などの滞在費、ビザ申請費

アメリamazonからの取り寄せ

TOEFLGRE、博士課程出願などの受験料

・外国の新聞(New York Times etc.)

そして、これらの支払いにおいて最も簡便な方法は、クレジットカードで支払いを済ませることである。クレジットカードには外貨決済機能がついており、ドルで支払った翌月、円で支払った他の買い物と合計して合わせて円で請求してくれる。余計な手間を一切必要としない点で非常に良くできたサービスだと思う。

 

しかし、良くできたサービスである分、コストがかかる。クレジットカードの外貨決済には通常為替手数料が加えられている。私が愛用するカードであれば、2.2%である。無論、多いとは言え外貨を使う場面が限られる研究者であれば、この2.2%はご愛嬌であろう。しかし、毎年国際学会のメンバーシップを支払うなどしていれば、この額は案外馬鹿にならない。

 

また、支払いがカードではなくPaypalの時も注意が必要である。Paypalでは外貨支払いの為替手数料が3.5%とやや割高である。

 

そして、支払い額が為替レートの影響をもろに受けることになる。つまり、円安のタイミングで支払いが行われるとその分支払いが増えることになる。それも避けたい。

 

しかし、博士課程留学でもしない限り、現地の銀行で口座を作るほどでもない。また、アメリカの銀行では口座維持費用が発生するため、若手研究者向けではない。例えば、私の口座の場合、1500ドル以上口座になければ、月々で使用量が差し引かれる。

 

このような時、日本を拠点に活動する研究者はどうすれば良いだろうか。

 

解決策:マルチカレンシー口座と対応デビットカードを作る

さて、このコストを浮かせる最も簡単な方法は、マルチカレンシー口座を作り、それに対応したデビッドカードを作ることである。マルチカレンシー口座とは、円のみならず外貨での預入にも対応した口座のことを言う。若手研究者には敷居の高いものもあるが、ネット銀行であれば、維持費がかからないことが多い。そして、マルチカレンシー口座を提供する銀行の一部は、デビットカードの海外利用を売りにしている。*1

 

この方法のメリットは、マルチカレンシー口座の為替手数料はクレジットカードの為替手数料より安いと言う点である。例えば、ソニー銀行であれば、円ドルの為替手数料1ドルで15銭であり、海外でのデビットカード利用に費用がかからない。1ドル100円だとすると、0.15%の負担である。クレジットカードと比べればその差は2.05ポイントである。そして、Paypalも(注意が必要だが)マルチマネーカードでのドル支払いが可能だ。Paypalはドル同士の支払いであれば追加の手数料は発生しない。そのため、差は3ポイント以上ある。 

 

moneykit.net

 

また、他にも、Wise Debit Cardというものがある。こちらは発行に1200円かかるが、トータルではこの額も誤差だろう。一度発行してしまえば格安の為替手数料のみで外貨の使用ができる。

wise.com

 

また、為替の影響を受けにくいと言う点も大きい。もし資金に多少余裕があれば、円高のうちに使う外貨を購入しておき、円安時に備えると言う方法も可能である。

 

また、手数料はサービスによって異なるが、現地ATMで比較的安価な手数料で外貨を引き出すことも可能である。しかし、場所によってはほとんどデビットカードで決済できたため、このサービスは使わなくて済む。そのため、滞在先がどの程度カード対応してるかは事前に調べておこう。

 

無論、外貨を使った余りはそのまま貯金しておけば良い。また、マルチマネー口座は(少なくともアメリカでは)大きな負担なくATM取引できるので、余った紙幣を帰国前にATMに預けることもできる。微々たる差ではあるが、外貨普通預金、外貨定期預金は円普通預金、円定期預金に比べて利子がやや高い。また為替差益(円高で買って円安で売る)も追求できる。

 

マルチカレンシー口座、デビットカードの注意点 

1 隠れたコスト

無論、マルチカレンシー口座&デビットカードでも隠れたコストに気をつけなければならない。マルチカレンシー口座&デビットカードで気をつけるべきは以下の2点だ。

・外貨にするための為替手数料
・外貨決済の事務手数料

為替手数料は概ねネット銀行であれば安い。中には1ドル1円のところもあるので注意しよう。ただ、それでも一般クレジットカードやPaypalの為替手数料に比べれば安い。また、意外と分かりにくいのが外貨決済の事務手数料だ。例えばある会社は、デビットカードでの外貨決済を謳いながら事務手数料が3%と高めに設定してある。

 

その点ソニー銀行は為替手数料、事務手数料の双方で極めて優秀だ。為替手数料はドルであれば1ドル15銭と極めてリーズナブルだし、外貨決済の手数料は一切かからない。なので、外貨アクティブユーザーであればソニー銀行を勧める。

 

ちなみに私は経路依存の問題でSMBC信託銀行のPRESTIAを使っている。ネット銀行ではないこともあり為替手数料は1ドル1円と高い。しかし、月々積み立てる分には為替手数料はタダになるので、正しく使えばソニー銀行よりお得だ。また、外貨決済手数料が0というのが極めてポイント高い。

www.keisoshobo.co.jp

www.smbctb.co.jp

  

2 マルチカレンシ口座デビットカードが使える範囲(大きな問題ではない)

オンラインサービスでクレジットカード・デビットカードを使う時、アメリカで発行されるカードしか使えないと言う場合がままある。例えば、私の経験では、現地の某宅食サービスや一部レストランのオンライン注文、一部新聞の購読、一部レストラン、交通用プリペイドカードへのチャージにおいてこのカードが使えなかった。この場合は素直にアメリカの銀行口座に紐づいたデビットカードで支払うことにした。(無論、ごく一部なので素直に円建てクレジットカードや用意しておいた現金でで支払うのも十分アリだろう。)しかし、Amazonや地元スーパーなど多くの場合問題なく使えるので問題にはならないと思う。

 

一方で、月単位の滞在の場合、家賃の支払いも契約の形式によっては注意が必要だ。カードやPayPalに対応している場合はデビットカードで問題ない。しかし、個人契約で口座への振り込みを求められた場合、国内マルチカレンシー口座から送金するのはかえって手数料がかかる。特に、マルチカレンシー口座のドルはこのような場合手数料的に使い物にならない。この場合は、すでに紹介したTransferwiseを使って送金するのが正解だ。そして、transferwiseはドル同士では使えない。つまり円から送金することになる。そのため、外貨を用意する前に、家賃の支払い方法だけは確認しよう。

 

3 外貨預金のポータビリティと投資の問題

そして、国内の外貨預金の最大の問題はポータビリティである。つまり、外貨の場合国内銀行間の移動は困難であり、また外国への送金も外貨の方がかえって割高になると言う問題が起こる。そのため、一度外貨にしたら、そのまま使うか、再び手数料を支払って円に戻すかしかないことが多い。そのため、外貨決済しやすい銀行を選び(ソニー銀行やPrestia)、必要以上に外貨を買わないと言う姿勢が重要になるだろう。

 

また、外貨アクティブユーザーとして理想的な銀行と外国株投資家として理想的な銀行(証券)は残念ながら一致しない。ソニー銀行やPrestiaはいずれも投信の販売などしかしておらず株式投資はできない。株式投資でよく使われる楽天証券SBI証券の提携銀行は外貨アクティブユーザーとして見た場合手数料で難が多い。そのため、外国株投資をする人は株式投資用の口座と外貨決済用の口座は分けるべきだろう。

 

また、外貨預金を投資として考えた時にパフォーマンスが悪いという問題がある。外貨預金で得られる利益は多くの場合、為替差益である。円高時に買って円安時に売れればそれだけで一定の投資にはなる。しかし、投資パフォーマンスとして見た時に、為替差益のみというのは非効率である。そのことを踏まえれば、外貨支払い用の外貨は必要最低限にして、「超えた分を別途支払うのは仕方がない」という割り切りが必要になるだろう。この点については以下の記事を参考にして欲しい。

my-sweet-beans.hatenablog.com

 

 

まとめ

以上、外貨支払いの手数料を抑える方法を紹介した。若手研究者の場合、外貨使用の多くはクレジットカードを使える場面である。そうであれば、マルチカレンシー口座デビットカードはそのまま使える。ある程度貯金のある人は、将来の支払いに備えて一部を使用外貨で貯金しておくのも一つの手であろう。そして、外貨アクティブユーザーにはソニー銀行を勧めたい。最後に、今回紹介したお得な外貨決裁サービスをまとめたい。

  SMBC信託Prestia Global Pass Sony銀行 WALLET WISE Debit Card
入会金・カード発行料 無料 無料 1200円
年会費 月1万円の外貨積み立てで無料 無料 無料
外貨決裁手数料 無料 無料 無料
為替手数料 積み立てでは無料。それ以外は1ドル1円 1ドル15銭 1ドル10銭程度?
その他メリット 楽天証券との相性が良い    
その他デメリット 海外送金には不向き 海外送金には不向き 決済に時間がかかる
銀行ではない

 

*1:いわゆる外貨預金の中には純粋な資産運用としてのみ想定しているところも多いので注意が必要だ。なお私は資産形成としての外貨預金には極めて懐疑的である。