マイ・スウィート・ビーンズ

齋藤崇治。東大博士課程で政治学を研究しています。

「数行の言葉で理論を理解した気になりたい怠惰」と戦う 初めてのフォーマルモデル講義体験記

私は現在カリフォルニア大学バークレー校で客員(学生?)研究員という身分を得て研究を進めつつ先生方のご懇意で授業を受けている。恥ずかしながらゲーム理論の講義をとってガッツリコミットしたのはバークレーが初めてだ。秋学期に応用篇をとり、春学期に基礎篇をとった。今回の留学の中で最大の収穫はガッツリゲーム理論の授業にコミットしたことだと思うので思ったことをつらつらと記したい。

 

なお、言葉遣いはかなり雑なのはあくまで雑感なので許してください。

 

政治学で使われるゲーム理論を理解することとゲーム理論を学ぶこととの微妙な違い

政治学をやっていればゲーム理論を見たことがないということは早々ないであろう。日本でも幾つか教科書が出ているから最早とっつきにくいものでもない。ちなみに以下の浅古先生の本はとても気に入っていて、アメリカに持ってきた本数冊のうち一つに入っている。

www.bokutakusha.com

 

さて、政治学で使われるゲーム理論を勉強する時、2つの側面があると思っている。それは、政治学上の理論に対するゲーム理論の応用を学ぶという側面と、ゲーム理論上の重要な理論を学ぶという側面だ。後者は例えば囚人のジレンマであり、前者は例えば安全保障のジレンマに対する囚人のジレンマの応用である。

 

そのため、ゲーム理論の教科書には2通りある。一つは政治学上のトピックを中心に据える教科書であり、もう一つはゲーム理論そのものの主要理論を扱う教科書だ。述の浅古先生の教科書は、前者に該当する。当然といえば当然だが、政治学ゲーム理論を勉強しようと思った場合、このタイプの教科書から入る場合がほとんどであろう。洋書でもGehlbach先生の本はこのタイプである。こちらも私は好きでiPadに入れている。こちらの方が遥かに硬派であるが、それでもなお応用という部分に力点をおいていることは変わらない。

www.cambridge.org

 

しかし、これらはあくまでゲーム理論政治学への応用を説明したものであることに注意しなければならない。これは、本の良し悪しではなく、そういうものである。(浅古先生もはっきりと序章で書いている。)結局、ゲーム理論そのものを勉強しなければ分からない部分というのはどうしても出てくる。

 

ではゲーム理論として理解するとはどういうことか。それは、前提と数式から導かれる帰結を丹念に辿ることである。それは当然各種のお約束ごとを学ぶということであり型を習得するということである。しかし、これは「数行の言葉で理論を理解した気になりたい怠惰」にとってはストレスフルなものである。式と式との関係を取り結ぶものは政治現象への直感的理解ではない。あくまで数学上の約束事である*1

 

ゲーム理論ゲーム理論として理解するために読みたい教科書

まず、ゲーム理論として勉強しようと思った時に簡単に概略を掴める動画は既にある。教科書読んで挫折した人はまず、Spaniel先生の動画集から分からなかったところだけ見ると良いだろう。

www.youtube.com

 

そして、ゲーム理論を勉強するという観点からすると政治学には優れた教科書がある。例えば、McCarty先生の教科書は、政治学のトピックを扱いながらも、ゲーム理論の主要理論を理解していくというスタイルをとっている。そのため、構成は一般的なゲーム理論教科書に沿ったものになっている。また、言葉による説明が多いため、どのような順序で物事を説明していくか極めてわかりやすい。特に、Ch. 8 Dynamic Games of incomplete informationは個人的に好き。ただ所々数理上の前提が分からない部分がある(ここがなんだかんだ重要である)ので、一般的なゲーム理論の教科書とセットでやると良いと思う。

www.cambridge.org

 

ゲーム理論を理解しようとすると、当たり前だがいよいよゲーム理論の教科書を読むしかなくなってくる。これに関しては経済学部の方々の方が遥かに詳しいだろうから彼らに任せたい。

 

とはいえ、一冊あげるなら、最近、授業のお供にフル活用しているのがPeters先生の教科書だ。私はこの教科書を非常に気に入っていて、必要な定義の数学的記述と数学的記述の言語による説明のバランスが極めて良い。おそらく、相当苦手な人に説明することをベースに論理展開を示していて、一歩一歩理解するのにちょうど良い。また、必要な定理の説明も充実している。私が今学期最も理解に苦労したものの一つが「SPNE outcomeとSPNEの違い」だが、この本はこの問題について非常に分かりやすい説明を与えてくれている。そして、McCarty先生の教科書を読んで曖昧に感じられたところは大体これで解決した*2

www.springer.com

 

今のところ、私たちのゴールは政治学におけるゲーム理論を理解することなので、McCarty先生の教科書を理解することを目標に、Peteres先生の教科書を読むというのが良いような気がする。本当はもっと教科書を紹介したいところであるが、むやみやたらに教科書を読んでも仕方がなく、またPeters先生とMcCarty先生の本をえらく気に入ったので、私はこれらをベースに研究へと繋げていきたい。

 

政治学における方法論

政治学の良いところは雑食なところだと思っている。片方の極には歴史分野で戦う研究者がおり、もう片方の極には統計分野で戦う研究者がいる。また、対象とする地域も人によって様々だ。基本的に、「みんな違ってみんな良い」学問である。

 

とはいえ、雑食ということはどうしても体系性の上で弱点に繋がる。例えば、高度な計量分析が求められる心理学では計量分析の勉強が欠かせず、緻密な史料読解が求められる史学では史料批判の勉強が必要なように、政治学を勉強する人はどこかで方法論の体系的な勉強をしておいた方が良いだろう。しかし、それは現状ではこうした勉強は多くの場合「自助」に委ねられている。政治学が雑食である以上、定性、フォーマル、定量の基礎はいずれも勉強することが望ましいだろう。政治学を専攻する多くの院生の宿命だが、こうした雑食性を理解して、しっかり体系だったマイ・カリキュラムを構築する必要があるのは言うまでもない。 

 

今回は授業の感想という体を取りつつ、本の紹介になった。とは言え、ゲーム理論の各種約束事というのは数式を眺めてその意味を理解することによってしか習得できない。この手間かかるプロセスを効率よく可能にするのはやはり授業・宿題によってだろう。フォーマルモデルの習得に強制的に時間をかけるという点でやはり授業をとって正解だったと思う。

 

 

 

 

 

 

*1:一方で、ある程度応用で研究をしたいと決めている人にとって、どこまでナッシュ均衡の背後にある諸定理を理解するべきかは一概に言えない部分な気もする。それは、因果推論を研究に取り入れる人が、どこまでその数学的説明を理解するべきかと言う問題と同様であろう。

*2:あとはバークレーの授業と院生TAによるセクションが本当に分かり易かった。この機会に本当に感謝したい。

SMBC信託銀行・楽天証券外貨送金サービスの若干の解説

先日以下の記事を書いた。

my-sweet-beans.hatenablog.com

要は言いたいことは、「楽天証券円高時に買った外貨を株などで運用し、必要な時にSMBC信託銀行に移せば、外貨が必要になった時の為替リスクを低減しつつ資産運用もできる」ということである。これの肝になるのが、タイトルのSMBC信託銀行楽天証券外貨送金サービスである。通常、国内口座間での外貨送金は手数料がとんでもなく高い。しかし、これを使えば、手数料は1000円になるので、外貨を使う人は是非とも検討すると良いであろう。

www.rakuten-sec.co.jp

 

ただし、これにも弱点があって、それが「分かりにくさ」「面倒臭さ」である。その最大の原因が上記の楽天証券側の説明にあると思っている。それについて若干の解説をしたい。とはいえ、最低限の手続きさえしてしまえば、実はもっとも簡単に国内の証券口座・外貨使用用口座間で外貨を送金できるサービスである。是非有効活用して欲しい。

 

SMBC信託銀行楽天証券の場合

これはあまり使う人がいないかもしれない。使うタイミングがあるとしたら、SMBC信託銀行のドル積み立ては為替手数料が無料であることを駆使する人か、在外研究などを終え当面外貨を使う必要がなくなった人であろう。私はちょうど在外研究をおえてしばらくドルを使わない事がわかったタイミングだったので資産運用のために一旦移すことにした。

 

この時、SMBC信託銀行から楽天証券に外貨を移すことになる。さてその方法の説明は公式では以下のように紹介されている。

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色々面倒くさいのだが、実はだいぶ簡単にできる。まず、必要なのは、SMBC信託銀行口座と楽天証券口座の紐付けだ。これは、電話する必要がない。以下のwebページの書類2つを送ればそれで良い。

https://www.smbctb.co.jp/support/updatingprofile/pdf/prestia_env.pdf

https://www.smbctb.co.jp/support/updatingprofile/pdf/j_rakuten_sec.pdf

 

さて、送ると送金の度に電話が必要なように読める。実はこれも必要ない。SMBC信託銀行PrestiaのWebページから簡単にできる。

 

上記の書類郵送後しばらくしたら、Prestiaのホームページから「送金・振込・振替」タブの「国内振込・海外送金」をクリックしよう。

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そして、海外送金の「登録済み口座へ送金する」をクリックしよう。

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同意部分を読んで次へ進んで

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送金口座を選択しよう。すると、そこに楽天証券の口座が出てくるはずである。

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一回郵便を送ってさえしまえば、後はいつもの送金と変わらずに楽天証券へと送金できてしまうのである。国内口座でのドルの移動としては、これが破格の安さ、利便性である。また、公式の説明では電話しなければいけないように見えるが電話は全く必要ない。

 

楽天証券SMBC信託銀行の場合

こちらを使う人の方が多いであろう。楽天証券で運用した外貨を必要に合わせてPrestiaの口座に移す場合である。

 

しかし、こちらの方が現状面倒臭い。特別な事前の手続きはいらないようだが、電話が必要のようである。とはいえ繰り返しになるが、国内の外貨送金としては破格の安さなので我慢しておこう。

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留学・在外研究・出張のためにいかに外貨を準備するか 円高時外国株投資からの流用

研究者はなんだかんだ国際的な仕事である。国際学会出張やメンバーシップ、在外研究と外貨を使うタイミングは案外多い。ということで、以前外貨預入に対応したマルチマネー口座を作り、その口座に紐づいたデビットカードを作ることを勧める記事を書いた。

my-sweet-beans.hatenablog.com

簡単に振り返ると、「事前にマルチマネー口座を作って外貨を購入しデビットカードで支払えるようにすると、クレジットカードで支払うより多くの場合2%お得」ということを書いた。そして、その上で諸々のコストがお得な、SMBC信託銀行プレスティアかソニー銀行でマルチマネー口座・対応デビットカードを作ることを勧めた。

 

しかし、この方法の本質的なメリットはたかだか2%の手数料ではない。この方法を活用するベストの条件は、円高時に外貨をまとめ買いすることであるのは明らかだろう。例えば、1ドル80円でドルを買って120円の時にそのドルで支払いできれば、1ドルあたり40円分得することになる。

 

外貨預金は効率が悪い

しかし、この方法には難点がある。それは、長期間外貨預金をすることは投資効率が極めて悪いということだ。外貨預金も円預金も利子の低さは変わらず、年利0.01%に過ぎない。これはもうほぼ0であり、外貨預金で得られる利益はほぼほぼ為替差益だ。例えば、2011年7月、8月には1ドル76円をつけた。その後のアベノミクス相場を仮に知っていたとして大量にドルを買ったとしよう。そして、1ドル124円になった2015年8月にたまたま在外研究をすることとなり、その時のドルを使うことになったとしよう。これは1ドル50円あまり得することになる。年利にすると13%になる。これは本当に得なのだろうか?

 

答えはNoだ。もしここで例えばインデックス投資(VTI、楽天全米株式)をしていたならば、この間、70ドルから110ドル、1.5倍になっていたことになる。こうした投資をせずに円高だからとただ外貨を買って放置しておくことは、(勧めておいてなんだが)極めて投資効率として悪いのだ。

 

解決策:SMBC信託銀行楽天証券外貨送金サービスを使う

 円高時に外貨を買って円安時までにとっておきたい、その間効率的な資産運用をしたい。この強欲を実現する方法が実はある。それが、SMBC信託銀行楽天証券外貨送金サービスだ。 

my-sweet-beans.hatenablog.com

前回の記事( https://my-sweet-beans.hatenablog.com/entry/2021/01/18/104902 )で書いたように、残念ながら投資手段として優れた外貨口座と外貨支払い手段として優れた外貨口座は一致しない。しかし、このサービスを使えば、投資に便利な外貨口座(楽天証券)と外貨支払いに便利な口座(SMBC信託プレスティア)との間で簡単に割安で外貨を移動できる。

 

これを使えば、楽天証券口座で円高時に外貨を購入し、外国株で資産運用した上で必要な時にプレスティア口座に移せるのだ。例えば、2011年7月に1ドル76円で当時70ドルのVTI (5320円)を買ったとしよう。そして、在外研究が始まる2015年8月(1ドル124円)に110ドルで売却できるのだ。この時110ドル用意しようと思ったら約13680円かかる。外貨預金として預けるだけなら1.6倍のところが、株式投資と組み合わせることにより2.5倍になるのである。この時にはSMBC信託銀行楽天証券外貨送金サービスに必要な1000円が最早無視できる額になっていることは明らかだろう。

 

なお、この目的でアメリカ株投資を行う場合は基本的にインデックス投資がベターだ。投資のための勉強に時間を費やすことを避けられる上に個別株固有のリスクを避けることができ、あくまで市場全体の旨味を得ることができるためだ。特に、VTI(楽天全米株式)は、大きく値を下げることが少ないため、かつての預金の感覚に近い。あとは好みの問題だろう。

hayatoito.github.io

 

なお、つみたてNISAはこの目的のためのものとしては避けるのが良いだろう。それは数年後に現金にすることが決まっているためだ。つみたてNISAは20年間放っておいて最大の効果が得られる。

 

また、あくまで今回の目的では、VOO(グロース企業にフォーカスしたETF)はあまり勧めることはできない。グロース株投資の宿命としてボラティリティが大きい。長期で投資するならともかく、数年以内に使う前提に立てば、下落した時のリスクが大きい。

 

外貨準備を資産運用の中に位置付ける

国内研究者にとって外貨が必要なタイミングは案外多い。とはいえ、日常の貯金や資産運用からすればその額は微々たるものである。そのため、外貨が必要になるタイミングにわざわざ備える(外貨預金)よりは、資産運用の中に外貨を取り入れてしまう方がよっぽど効率良い。すなわち、円高時に外貨を購入してそのまま株投資を行い、必要な時に必要なだけSMBC信託銀行楽天証券外貨送金サービスを用いて送金する方が、資産運用という観点からは効率的なのだ。無論、今回のモデルケースがアメリカの場合という留保は重要である。

 

株式投資自体は万人に勧められるものではない。別に私も研究で忙しいので大きな時間を費やしているわけではない。とはいえ、近年こうした資産運用の重要性は特に強調されている。特に国内で生計を立てていくのであればなおさらだ。

my-sweet-beans.hatenablog.com

 

今回の記事が来るべき留学・在外研究・海外出張の参考になれば幸いだ。 

 


 

 

 

2020年(2021Fall)PhD出願感想戦 ある不合格者の話

2020年末、私はアメリカPhD(政治学)に出願した。出願は今回で2回目である。前回は一校ウェイティング・リスト(補欠)には選ばれ現地にまで足を運んだものの、残念ながら最終的にrejectであった。そして今回はウェイティング・リストにもかからずあっさり終わってしまった。今は脱力感・無力感が大きい。

 

今回の記事では、2019年出願と比較して戦略を変えた部分、強化した部分について振り返りたい。そして足りなかった部分について考えたい。

 

なお、政治学分野のアメリカPhD出願については、JSQPS(計量・数理政治研究会)が定期的に説明会を行っているので、まずはそちらに参加することをオススメしたい。メーリングリストに入っていない人は今から入ろう。

sites.google.com

また、PhD留学一般のストラテジーについてはオックスフォード大に留学された向山さんがまとめているので参照されたい。

penguinist-efendi.hatenablog.com

 

2019年出願

私はそもそもPhD出願を決断した時期が極めて遅く、東大博士課程進学直前の2019年3月である。

 

2019年出願を振り返って改めて思うのは他の出願者と比べての経験不足だ。例えば、日本の大学からアメリカ博士課程留学した人たちの中には学部時代に留学し、その時点で将来のアメリカ博士課程出願を決心している人も散見される。無論、学部時点で既にTOEFLの勉強を頑張っているという点も私と比べてリードしている点であろう。

 

その上で、Statement of Purpose、Writing Sample、推薦状の準備をしなければならない。Writing Sampleのための論文の準備は、2019年4月から急ピッチで始めたものであり今から見ても穴が多かった他、推薦状のための戦略にも欠けていた。このあたりは大きな反省であり、2020年出願に向けて改善した部分である。

 

2020年出願

さてここからは2020年出願に向けた戦略を紹介したい。無論、経験不足は如何ともし難いのでそれをどう乗り越えるかという話になる。

1 Statement of Purpose

Statement of Purposeは、結局優れた研究計画か、具体的な目に見える成果をどれだけ書けるかである。不要な形容詞は全て取っ払い、成績表に掲載された成績、留学歴、RA歴など目に見える経歴を、推薦状でどのように書いてもらえるかを想定しつつ、どれだけ書けるかである。そして、それらを自分のしたい研究計画に説得的に結び付けられるかである。

 

そのため、SoP準備とはCVの見た目(中身)を充実させることでもある。これは結局推薦状を書いてもらう先生からしても推薦状を書きやすくすることにつながる。2020年出願では大きく次のことを改善した。

a 留学歴の追加

留学歴が実際にどれだけ重要なのかは私は知らない。とはいえ、アメリカPhDに留学する先輩の多くはそれが初めての留学でないことは確かである。そのためもあり、2019年出願段階で、2020年出願に向けて留学をすることは検討していた。

 

そのため、私はバークレーにVisiting Student Scholarとして留学することを2019年出願とほぼ同タイミングで決め、出願した。(詳しい経緯は以下)

 

my-sweet-beans.hatenablog.com

当然であるが、PhD留学と比べればaccpetもfunding獲得もハードルが遥かに低い。これにより経歴としてのアメリカ留学を追加することとなった。そしてこれは奨学金受給というCVに書ける経歴でもある。

 

ただし、この方法にも難点はある。バークレーで授業を受けたものの、あくまで聴講なので成績表には反映されない。また、出願タイミングが丁度最初の授業の途中のタイミングであった。そのため、現地の先生に推薦状を書いてもらうということは現実的でなかった。なので、この留学がそもそも出願にどの程度プラスだったかは疑問が残る。理想を言えばあと一年早く留学して推薦状のお願いをすればよかったのかもしれない。

 

とはいえ、このタイミングで留学し現地の授業も受けたことは、私にとって価値あるものだったと思う。また、上記投稿で紹介したが、日本で博士号を取得する分には在外研究は悪くない選択である。

 

b 国際学会での研究発表

自分にアメリカ博士課程での研究遂行能力があることを示す経歴とは何であろうか。一番は国際的な査読論文を既に出版していることであろう。しかし、政治学ではアメリカでそうした人はちらほらいるものの、それがスタンダードになっているとは到底言えない。また、難易度の高い授業でハイパフォーマンスを示すこともその一つであろうが、これはどちらかというと推薦状の問題である。

 

今回、私が採用した研究遂行能力アピールの方法の一つは国際学会での発表だ。特に、政治学では有名なAmerican Political Sciecne Association Annual Meetingでの発表だ。無論、政治学においては査読論文と学会発表は雲泥の差なので優れたサインになるとは言えないが、それでもメジャーな国際学会の中では最も倍率が高い。幸い、2019年出願直後に出したプロポーザルがAPSAに通り、夏に無事発表を終えたので経歴として追加した。

 

c 研究関心をより幅広い領域に位置付ける

当然、自分の研究テーマをブラシュアップすることも重要だ。出願するからにはその大学の誰に読んで欲しいかは考えるだろうが、当然、その先生が読むとは限らない。元々私は「政治家による官僚の統制」に興味があったが、それを比較政治経済研究として捉える書き方をした。前者がどちらかと言うとPublic Administration的関心なのに対して、後者でより広く政治学者の関心を得られるように変えた訳だ。

 

2 推薦状の戦略

推薦状については、書く側も書いてもらう側も以下のページのことは最低限知っておくべきである。

iwasakiichiro.info

推薦状が書く側にとっても極めて重要な書類であり、それ故出願選考においても重要な選考材料として役立てられているのもわかる気がする。

 

無論、いかなる人物に推薦状を書いてもらうべきかは重要なテーマであるが、誰に書いてもらえるかは、これまた難しい問題である。よく言われるのは「アメリカで有名研究者に強力な推薦状を書いてもらう」である。しかし、ここは日本なので、その中でアメリカで有名な研究者を探し、またそんな優れた人に高く評価してもらうことは、共に難しいのは明らかだろう。この辺りについては、例えばアメリカの大学で学部や修士を卒業・修了することはそのまま有利になる部分だろうなとは思う。ただし、日本にいても、この部分で努力することは可能だ。

penguinist-efendi.hatenablog.com

securitygame.hatenablog.com

また、近年では有名な先生のRA・プレドクを経由して博士課程に進学するというルートも多い(らしい)。これは日本の学生にとってどれだけアクセス可能なものなのかは分からない。

 

なので、私は過去に多くの学生のPhD出願推薦状を書いている先生にお願いするという戦略を採用した。推薦状文化は日米で大きく違い、アメリカで評価される推薦状を書くには、最低限上記サイトの知識は必須だからである。それは結局、すでに多くの推薦状を書いている先生と言うことになる。なので私はPhD留学した先輩方に誰に推薦状をお願いしたのかを聞き、その先生方にお願いした。

 

また、自分がSoPに盛り込みたい経験について知ってもらっていることも重要だろう。そのため、上記の先生方のうち、学会・研究会・ゼミで発表して自分の存在を認知してもらっている先生方にお願いした。

 

ただ、日本にいながら政治学分野で良い推薦状を得るにはどうすれば良いかはいまだよく分からない。とはいえ、既に多くの学生が今回私がお願いした先生方の推薦状を得て留学している訳で、この部分は悪い戦略ではなかったと考える。

  

2020年出願で強化できなかった部分

色々強化したつもりではあるが、奨学金に一つも引っかからなかったのは明らかな失敗であった。これに関してはもっと出すべきであったと反省している。

 

また、これは強化できなかったと言うよりは意思決定なのだが、出願先は前回より少ないU.S. News政治学ランキングトップ20の中の12校に絞った。この応募からしてタフな戦いになることは想像できた話ではある。

 

そして英語。2019年出願時はTOEFLが100-105であったが今回もこのレンジであった。より高い点数が望ましいのは間違いないであろう。

 

もしも時を戻せるとしたら?

極論、アメリカの学部に行くべきだったと思わなくもないが、それは無理筋なので措いておく。ただ、多分もっと早い時期からアメリカPhDに応募しただろう。そして奨学金をより強い覚悟で取りに行くだろう。

 

アメリカPhDに早い段階で応募するべきなのは、PhD3浪が決して珍しくないだけではない。結局、早い段階で応募するために早い段階で研究業績をあげる、英語の勉強をするといった努力は、研究者キャリアにとって確実にプラスである。それに加え、出願のパフォーマンスによっては、一部の大学からMAのオファーをされる。そして、中にはPre-PhDを明確に謳い、名門PhD輩出を掲げたプログラムもある。

 

しかし、このオファーを受けるには結局高い授業料が必要だ。また、PhDと異なり生活費の支給は期待できない。そのため、MAでこそ奨学金が必須となる。(学費の高いアメリカのMAがPhD予備校と化すのは高等教育のアクセスとして問題があると思うが)そのため、奨学金を狙った上でMAを次善の策にするのが若い人の戦略として良いであろう。

 

しかし、MAのオファーですらも当然選抜があるので、結局もっと若いうちから研究に励むべきだったというどうしようもないifになる。政治学の中でも特に計算社会科学や行動計量学的な分野では学部生から学会発表をするのは珍しくない。そういう人であれば、MAを経由したPhDも十分狙えるであろう。ただ、学部生からこうした業績をあげるのは本人の能力も重要ではあるが、環境がより重要だ。もしも、自分がそういう環境にいないのなら、まずそのような環境を探すのが良いのかもしれない。

 

最後に

念のために記すと別にこの記事はアクセプトを得られなかったことへの呪詛ではない。あるいは「こんなに頑張ったのに」という言い訳ではない。結局、今年強化した部分、留学、国際学会はいずれも弱かったということになる。留学を一年早めてそこで推薦状を得ていたらよかったのかもしれないが、それによってアクセプトに至るのかは定かではない。あるいは今取り組んでいる論文を既に出版していたら良かったのかもしれない。2020年出願というタイミングもあろう。とはいえ、若干の授業料免除付きでMAのオファーはあったので概ね間違いではなかったのだと思う。

 

分野は違えど、研究一般、留学戦略のいずれにおいても高みを目指して一生懸命頑張っている方々がしっかりアクセプトされる印象だ。

MIT五十嵐さんのブログ(Computer Science)

アメリカ博士課程留学 − 立志編 - 旅する情報系大学院生

メリーランド大立石さんの寄稿(経済学)

https://www.funaifoundation.jp/scholarship/202007tateishiyasuka.pdf

 

総じて言えば学部生の頃からの研鑽という点で彼らに負けているし、またたった2度の全敗で出願から撤退するというのも執着が足りないのかもしれない。出願戦略設定の「ミス」もあるだろう。特に、PhD留学への執着は、アクセプトのために必須であるように思う。そして執着の重要性を考えると、既に挙げたように早いうちから留学を計画し準備することもまた重要であろう。見事アクセプトされた方々に学部で交換留学をした人たちが多く見えるのはこの部分が大きいのだと思う。

 

とは言え、時間は巻き戻せず有限であり、PhD留学するならするからには得たいものというのは当然ある。私の場合は、PhD留学そのものには拘泥せず東大で博士号を取得することも十分想定していた。また、3回目の挑戦、5回目の挑戦でアクセプトされるのかもしれないが、その価値は私にとっては大きくなかった。(繰り返しゲームにおける割引因子である。)そういう観点からの今回の戦略なのであり、今回の結果である。どこに出願するか、何度挑戦するかという感覚はその人のものによるので、あくまで私の場合の話である。

 

さて私はこれから博士論文の完成を目指すことになる。しばらく凹むだろうが、場所は違えど世界の知への貢献に向けて精進するつもりだ。当然、学問に場所は関係ない。

 

一方で、今後アメリカPhD挑戦を目指す方は何かの参考になれば幸いだ。成功を祈ってる。

 

 

読書感想 『驚くほどシンプルで一生使える投資の極意』

最近、金融投資ブームに乗っかって株式投資を始めた。

 

なぜわざわざ「金融」「株式」とつけたかといえば、この本の影響である。

www.amazon.co.jp

この本は、金融投資のテクニックではなく、もっと広い社会人の心構えをとくタイプの本だ。まず私たちは「健康で働き続けられる」限り、生涯年収分の価値(「人的資産」)があると考えるところから始まる。そして、株などの金融資産それとセットで考えられる。当然ではあるが、20代にとって多くの場合、人的資産が金融資産を遥かに上回る。そのため、人的資産への投資=勉強etcが最も重要であると説明する。単純に、同じ1000万円生み出すのに、1億円以上あるであろう人的資産への投資と、n万円に過ぎない金融資産への投資のどちらが簡単かという話だ。そして、「健康でい続けること」の重要性もその観点から説明される。たとえ過労によって金融資産が少し増えたとしても、それ以上に人的資産が減るのだと理解した。

www.cnn.co.jp

 

そして、以上の勉強=自己投資という観点から、金融資産の運用も説明される。この本でいう金融資産とは、自分自身という人的資産との合計のうちごく僅かな部分を占めるに過ぎないものだ。その際、まず人的資産の立ち位置を考えることを求める。私の場合は、日本で将来就職する予定なので、よくも悪くも日本の成長・衰退に身を委ねるということになる。そのバランスを取るのが金融資産である。そのため、日本が衰退してもある程度は大丈夫なように金融資産の投資先を考えようというのがこの本のメッセージだ。(詳しくは本を読んでください)

 

勉強=自己投資自体は前々から考えていたつもりから、それと自分の健康、金融資産の投資まで結びつけて考えるのは私にとっては新鮮で読んでよかったと思う。

 

博士課程学生は人的資産投資100%?

さて、この本を読んで思ったのが、博士課程学生の性質である。この本の概念を用いてざっくりと言えば、我々は人的資産投資=勉強(研究)に全振りした人たちという理解になる。無論、金銭的な価値という点からすれば将来ペイするかどうかというのは極めて大きな問題なので、私がこのようなことをいうのはどこかおかしいことなのかもしれない。とは言え、最近は社会科学でも博士課程出身の人が活躍するフィールドは増えているので、仮にアカデミアに残らないとしても、今培っているスキルはどこかで役に立てられるかもしれない。この辺は割と私は楽観的だ。なので頑張って勉強・研究を続けようと思う。

 

そして、最近SNSでも賑やかな「研究テーマをどう設定するか」という問題にも思い至った。ある研究をするということは、その領域で人的資産に投資するということであり、そのテーマの栄枯盛衰に身を委ねるということでもある。かつてポスドクが政策的に推進された一部の分野がどのような結末を迎えているかは言うまでもない。研究分野に関してヘッジを効かせることは可能なのであろうか?とは言えこの辺はまだ考えがまだまとまってないのでここで止める。

 

金融資産投資はどのように行うか

博士課程学生は、身分の不安定さという問題の他に(「就職」によってしか解決しないので考えない)2つのリスクを持っている。それは、国のリスクと、研究テーマのリスクである。私の場合は将来日本で働き、日米の政治を対象とした研究をとりあえずは進める予定だ。そのため、日本のリスクとアメリカのリスクを自分の人生に内在化させることになる。とはいえ、メインのリスクは日本で働くことによるものであろう。

 

そのため、金融資産投資は日本のリスクをなるべく避けるというのが基本的な線になるのだろう。もしかしたら将来、アメリカに対してもリスクを避けることを考える時代がくるのかもしれないが。

 

 

国際査読誌掲載への道 随時追記

現在私は、取り組んでいる論文 "Supervision among Agencies for the President" を国際査読誌に通すべく改稿している。

sites.google.com


何かの参考になることを期待して、スケジューリングを記したい。既にたくさん言われていることだが、思った以上に時間かかる。。。

 

2019/8/9 研究スタート

2020/1/4 JSQPSで元ネタの発表

2020/5/27 AOPSSSでの発表。初めてアメリ大統領制研究者からコメントをもらう

コメントをもとに改訂

2020/6/16 雑誌1に投稿

2020/7/20 リジェクト

コメントを踏まえて改稿

2020/9/25 雑誌2に投稿

2020/10/2 デスクリジェクト

2020/10/20 雑誌3に投稿

2020/10/23 デスクリジェクト

2020/11/5 雑誌4に投稿

2020/12/8 リジェクト (ヴァリデーション、事例研究など)

2020/12/14 ゼミ発表。ヴァリデーション、事例研究をめぐり示唆を得る

2020/12/16 先生に相談。ヴァリデーションの大体の方向性を掴む

現在 コメントを踏まえて改稿中

 

アメリカでの野菜ジュース選び

一人暮らしでの難題はいかにバランスよく栄養を摂取するかである。それが特に問題となるのは野菜だ。野菜は日持ちが短く、なかなか一人で幅広い栄養を摂取することは難しい。

 

そのため、日本にいる時から野菜ジュースに頼ってきた。日本にいる時は、「野菜一日これ一本」や「一日分の野菜」といった極めて分かりやすい野菜ジュースがあり、私はそれらを愛用していた。

 

無論、アメリカで、それら日本の野菜ジュースを手に入れるのは困難だ。ということで、現在、その代替品として重宝しているのが、V8 Low Sodiumである。

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Low Sodiumが丁度良いというのがいかにもアメリカらしいというのはさておき、これの栄養成分は非常に優れている。食物繊維、ビタミンA、ビタミンC、鉄をバランスよく含んでいる。加えてamazon.comで24本15.92ドルと極めてリーズナブルである。

 

より良いものがないかは随時検証を続けていきたい。